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ジャーナル#9 大阪・関西万博〜ミャクミャクとビューティ〜

目次

  • ①大阪・関西万博公式キャラクター『ミャクミャク』
  • ②赤と青の配色が挑戦したビューティ業界のタブー
  • ③「かわいい」の定義を揺るがした多様性、絶妙な曖昧さ
  • ④日本の「KAWAII文化」が進化する時
  • ⑤ミャクミャクが残したビューティレガシー

2025年、世界中から注目が集まる大阪・関西万博が閉幕しました。184日間にわたって開催されたこのイベントは、世界中から2,500万人を超える人々を迎え入れました。

国際的な大規模イベントでは、会場を彩るのはパビリオンや展示だけではありません。何千人ものスタッフの「身だしなみ」もまた、日本という国を映し出す鏡となります。世界中から集まった人々の多様な美の表現、それぞれの国や文化が育んできた独自のスタイル。公式キャラクター「ミャクミャク」の柔らかなフォルムからインスピレーションを受けたメイクアップトレンドまで、万博会場は美容感度の高い人々にとって、まさにインスピレーションの宝庫でした。

そこで、ヘアメイクアーティストの視点から、万博を振り返ってみたいと思います。
特に注目したいのが、公式キャラクター「ミャクミャク」とビューティ業界の関係です。
「これは…何だ?」と戸惑いから始まったこのキャラクターが、いかにして美容トレンドを生み出し、日本の「かわいい」文化に新しい風を吹き込んだのか。その軌跡を追ってみることにしました。

①大阪・関西万博公式キャラクター『ミャクミャク』

ミャクミャク

「ミャクミャク」
細胞と水がひとつになったことで生まれた、ふしぎな生き物。その正体は不明。
赤い部分は「細胞」で、分かれたり、増えたりする。
青い部分は「清い水」で、流れる様に形を変えることができる。
なりたい自分を探して、いろんな形に姿を変えているようで、人間をまねた姿が、今の姿。
但し、姿を変えすぎて、元の形を忘れてしまうことがある。
外に出て、太陽の光をあびることが元気の源。雨の日も大好きで、雨を体に取り込むことが出来る。
公式サイトより:https://www.expo2025.or.jp/

正直、筆者は最初ミャクミャクを見て「こ、これは…何だ?」と思った一人です。細胞と水がひとつになったことで生まれた、ふしぎな生き物 ミャクミャク。赤と青の配色、そして目玉が何個も。なんとも不思議なキャラクターだなと感じていました。しかし、万博が始まると、一気に人気が爆発し、ミャクミャクコラボのビューティグッズもたくさんリリースされ、コスプレする人も現れ、いつの間にか私もミャクミャクの虜になっていました。

②赤と青の配色が挑戦したビューティ業界のタブー

大阪・関西万博コラボビューティグッズ

ミャクミャクの最も特徴的な要素は、赤と青という対照的な配色です。ビューティ業界において、互いに主張が強すぎて調和が難しいという理由から、この二色を同時に使うことは避けらています。しかし、ミャクミャクはこの「ありえない組み合わせ」を堂々と纏っていました。

とある、ビューティコラボ商品では、原色ではなくやや柔らかいトーンに落とし込み、ミャクミャクの世界観を日常に取り入れやすくしていました。ネイル、リップクリーム、冷感ボディミスト、シートマスク。大手化粧品ブランドもこぞってコラボレーションに参加しました。SNSでは「#ミャクミャクネイル」というハッシュタグとともに、バリエーション豊かなネイルアートが次々と投稿されるなど、SNS界隈を賑わせてくれました。

ビューティ業界のいち早いコラボも相まって、日常的に使う美容アイテムにミャクミャクが登場することで、このキャラクターは「万博の象徴」から「日常の一部」へと変化していったように思います。

③「かわいい」の定義を揺るがした多様性、絶妙な曖昧さ

ミャクミャク

ミャクミャクの最大の強みは、従来の「かわいい」という定義に当てはまらない、絶妙な曖昧さでした。子どもたちは「おもしろい」と感じ、若者たちは「シュール」と評価し、大人たちは「個性的」と解釈しました。それぞれが、自分なりのミャクミャクの魅力を見つけることができたのです。

この多様な解釈の許容こそが、現代社会にマッチした要因だったと思います。SNSが発達し、価値観が多様化した今、一つの「正解」を押し付けるのではなく、見る人それぞれの感性に委ねる。ミャクミャクは万博の象徴であると同時に、時代を反映したものだったような気がします。

④日本の「KAWAII文化」が進化する時

KAWAII

日本には独自の「かわいい」文化があります。キティちゃん、ピカチュウ、ドラえもん。丸みを帯びたフォルム、大きな瞳、優しい色使い。これらのキャラクターたちは、世界中で「KAWAII」という言葉とともに愛され、世界に誇るキャラクターとなってきました。

しかし、ミャクミャクはそうした伝統的な「かわいい」から、意図的に外れています。細胞と水という生物学的なモチーフ、赤と青という対照的な配色、どこか不定形な存在感。それは、日本の「かわいい」文化が次のステージへ進化しようとしている兆しなのかもしれません。

ビューティ業界もまた、長年「美しさ」の画一的な基準に縛られてきました。しかし近年、インクルーシブビューティという考え方が広がり、肌の色、年齢、性別を問わず、一人ひとりの個性を尊重する流れが定着しました。ユニバーサルデザインの製品も多く、多様な人々がモデルとして起用され、それぞれの「美しさ」を肯定的に表現する広告も増常となりました。これは、ミャクミャクの「どう見てもいい」「何を感じてもいい」という、まさに新しい美の価値観と重なるのではないでしょうか。

⑤ミャクミャクが残したビューティレガシー

大阪・関西万博公式グッズ

最初はピンときていなかった筆者が、今ではミャクミャクグッズを愛用しています。ミャクミャクが教えてくれた、価値観です。
万博が閉幕した今、ミャクミャクがビューティ業界に残したレガシーは、「美しさに正解はない」「個性も魅力になる」「多様性を受け入れる」という、これからの時代に必要なメッセージでした。そしてそれは同時に、日本の「かわいい」文化が、より多様で自由な表現へと進化していく可能性を示したものだと思います。