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ジャーナル#6 サービス業界の身だしなみとジェンダーギャップ

目次

  • ① サービス業の「身だしなみルール」の課題と現状
  • ② 日本の「ジェンダーギャップ」と職場の身だしなみルール
  • ③ サービス業向けヘアメイク監修
  • ④ サービス業向けヘアメイク研修で伝える「理にかなった身だしなみ」
  • ⑤ サービス業の身だしなみの未来

美と自己表現の自由 - 日本のジェンダーギャップ指数から考える職場の身だしなみ規定
美容業界で活躍するヘアメイク集団コムニコスとして、私たちは日々お客様の「なりたい自分」を表現するお手伝いをしています。しかし、日本社会においては「なりたい自分」を表現する自由が、特に職場環境において制限されることが少なくありません。このジャーナルでは、日本のジェンダーギャップ指数の現状を踏まえながら、職場における身だしなみ規定の問題点と、美容のプロフェッショナルとして考える「身だしなみ」について深掘りします。

日本のジェンダーギャップ指数の現状
世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数において、2024年の日本の順位は118位となりました。これは2023年の125位から若干改善したものの、依然として先進国の中では最下位レベルです。特に「経済」の分野では、まだ56.8%の経済的男女格差が解消されておらず、120位にランクされています。

ジェンダーギャップ指数は経済・政治・教育・保健の4分野の統計データをもとに計算され、4つの分野それぞれのスコアの平均値によって決定されます。日本は健康や教育の分野では世界トップクラスでありながら、政治や経済の分野で女性の参画率が低いことが全体順位を押し下げている要因となっています。

①ヘアメイクのプロから見たサービス業界の「身だしなみルール」の課題と現状

手の中にハートで、健康をイメージ

私たちヘアメイク集団コムニコスは、ホテルや旅館、航空会社、レストラン、デパートなど、様々なサービス業界でスタッフの身だしなみ指導をしています。接客の最前線にいる人たちのヘアメイクを担当する中で感じたことがあります。
それは「身だしなみ規定のルール」への疑問です。
一般的に、航空会社のキャビンアテンダントは「夜会巻き必須」「口紅は指定のカラーのみ使用可」。ハイクラスのホテルのフロントスタッフは、「低い位置でのシニョンヘア」男性スタッフは「7:3の短髪でヘアカラー、髭はNG」、デパートの女性販売員は「5cm以上のヒールを履く」「スカートのみでパンツスーツ不可」など、細かなルールがたくさんあります。
しかし、その一般的な理由は「昔からそうだから」「見た目が美しいから」「お客様がそれを期待しているから」という、根拠のない曖昧な答えが返ってくることがほとんどで、本当にそのルールが必要なのか、疑問に思うことが多いです。
特にサービス業界では、男女で全く違うルールが設けられています。女性CAは細かいメイク規定があるのに対し、男性CAにはほとんどない、女性のホテルスタッフはヒール必須なのに男性は楽な革靴でOK、など。
このようなルールは、働く人たちの健康や個性を尊重していると言えるのでしょうか?長時間のフライトで足に負担のかかるヒールや、頭皮に負担のかかるきつい髪型を強制することは、接客の質を上げることにつながるのでしょうか?つまり、お客様のためになっているのでしょうか?疑問が残ります。
私たちヘアメイクから見ると、こうした古い身だしなみのルールは、時代に合わないだけでなく、スタッフの負担を増やし、「サービス本質」を下げているケースも少なくないと考えています。

②日本の「ジェンダーギャップ」と職場の身だしなみルール

ホテルロビー

2024年に発表された世界ジェンダーギャップ指数によると、日本は世界146カ国中118位という低い順位でした。これは前年の125位から少し改善したものの、先進国の中では最下位クラスです。特に「経済分野」では120位と、男女間に大きな格差が残っています。 この数字の背景には様々な要因がありますが、職場における身だしなみルールの男女差もその一つと考えられます。
日本の労働組合が行った調査では、57.1%の職場に服装や身だしなみに関する規定があり、「男性は長髪NG」「女性はシャツ色ピンク」「女性はパンプス着用必須」など、男女で異なるルールが設けられていることが分かりました。
サービス業では特にこの傾向が強いです。航空会社のCAさんは女性だけ詳細なメイクや髪型の規定があり、旅館では女性仲居さんは和装、男性スタッフはスーツという区別があります。デパートの販売員さんも女性だけヒールの高さが指定されるなど、業種を問わず性別による区別が見られます。
女性の身だしなみについては、ヒールの指定だけでなく、メガネ禁止や化粧強制など、「清潔さ」だけでなく「美しさ」まで求められる傾向があります。
これらの規定は長時間立ち仕事の多いサービス業で、足や腰の痛みなど健康問題の原因にもなっています。「見た目だけの問題」ではないんですね。

③サービス業向け身だしなみ監修とヘアメイク研修

ヘアオイル

私たちコムニコスでは、ホテル業界初めさまざまなサービス業の研修で、従来の「男女別マニュアル」ではなく、「企業のブランディングと時代に合った機能的な身だしなみ」という考え方を提案しています。
具体的には、こんなポイントを重視しています

●1.機能性と清潔感を基本に
男女の区別ではなく、その仕事内容に合った身だしなみを提案します。例えば、レストランでずっと立って接客する人には、長時間のシフトでも崩れにくいヘアスタイルを提案。また乾燥に耐えうる肌作りや、ヘアスタイリング剤のセレクト。キッチンのスタッフには湿気に強いスタイリング方法をレクチャーします。男性・女性関係なく、その仕事の動きや環境に合った実用的なヘアメイクが重要です。

●2.様々なお客様への配慮
特に海外からのお客様も多いので、国際的に受け入れられる清潔感のある印象作りが大切です。文化によって違う「美しさ」や「マナー」の基準を知り、多様なお客様に好印象を与えるスタイリングをレッスンしています。

●3.個性を活かした統一感
スタッフ一人ひとりの顔立ちや髪質を活かしたパーソナルレッスンとガイドラインで、イメージから逸脱しない統一感を表現する方法をレクチャーします。それぞれの個性を活かしながらも、上品さを感じさせ、自分か最も輝けるヘアメイクを提案。清潔感を保ちながらも親しみやすさや、美しさを感じさせるヘアスタイルを伝授しています。

●4.実務的な持続性
シフト制の多いサービス業では、長時間崩れにくく、短時間で整えられる髪型やメイク術が重要です。男女問わず、仕事の邪魔にならない実用的なテクニックを教えることで、スタッフの負担を減らし、サービスの質を一日中高く保つことができます。
こういった新しい考え方で、サービス業の「おもてなしの品格」と「働きやすさ」の両立を目指しています。

④サービス業向け研修で伝える「理にかなった身だしなみ」

フェイスパックをする女性

サービス業向けのヘアメイク研修では、「こうしてください」というルールではなく、ブランディングはもちろんのこと、「なぜそうするのか」という理由と効果を重視しています。これまでの研修の経験から、効果的だった方法をいくつかご紹介します。

●目的から考える
「なぜその身だしなみが必要か」を明確にします。例えば、高級ホテルで「信頼感と上質な印象を与えたい」という目的があるなら、それを表現する方法は必ずしも「女性は夜会まき、シニョンヘア」だけではありません。清潔感とホテルのイメージを保ちながらも、よりモダンで機能的なヘアスタイルを提案します。

●ジェンダーレスな、客観的な基準にする
「清潔感」「信頼性」「機能性」など、性別に関係のない基準を設定します。例えば「髪は顔にかからないようにまとめる」というルールなら、長髪の男性も女性も同じ基準で対応できます。これにより、不必要な男女差をなくし、より公平な環境が作れます。

●選択肢を増やす
「方法はいくつもある」という考え方を提案します。例えば、「フォーマルな印象」という目的に対して、自分に合った表現方法を選べるようにすることで、働きやすさと見た目の品格、と個性。ウェルビーイングな効果も期待できます。男性が長髪を清潔な印象にまとめることや、女性がナチュラルメイクを選択することも可能で、柔軟性を持たせています。

●ウェルビーイングを大切に
特に問題になりやすい靴については、「フォーマルで清潔感のある靴」という基準にして、必ずしもヒールの高いパンプスに限定しない、スニーカーを採用するなど、健康面への配慮を提案します。あるホテルでは、女性フロントスタッフに対して、ホテルのイメージに合う複数の靴のデザインから選べるようにして、見た目の統一感と快適さを両立させました。
こうした研修を通じて、サービス業の身だしなみルールが「なんとなくの習慣」から「目的と効果が明確なガイドライン」へと進化していくのを支援しています。

⑤サービス業の身だしなみの未来

HOTELの外観

私たちコムニコスは、様々なサービス業の管理職や人事担当者に、こんな身だしなみルール、ガイドラインの見直しを提案しています

●1.性別ではなく職務内容で分ける
「男性社員は」「女性社員は」という区分ではなく、「フロントスタッフは」「調理スタッフは」「販売員は」という職務内容による区分にしましょう。これにより、性別に関わらず業務に適した身だしなみルールを作ることができます。例えば、あるデパートでは、従来の男女別マニュアルから「接客部門」「バックヤード部門」という区分に変更したことで、多様な人材が働きやすい環境ができました。

●2.健康と機能性を優先する
長時間の立ち仕事が多いサービス業では、特に靴選びが重要です。女性だけにヒールの高い靴を強制するのではなく、「フォーマルで清潔感のある靴」という基準にすることで、足や腰への負担を減らし、より長く元気に働けるようになります。あるレストランチェーンでは、女性ホールスタッフの靴を、見た目の高級感は保ちながらもクッション性の高いものに変更したところ、スタッフの疲労が減り、接客の質が向上しました。

●3.多様性を認める柔軟なルール
様々な髪質、肌質、体型、文化的背景を持つスタッフが働きやすいルール作りが大切です。例えば、ある人の髪質ではストレートヘアが難しい場合もあります。そうした個人差を考慮した柔軟な基準を設けましょう。ある国際ホテルでは、様々な人種のスタッフが自然な髪質を活かしながらも清潔感を保つ選択肢を増やすことで、多様な人材が活躍できる環境を作りました。

●4.定期的に見直し、スタッフの声を聞く
現場で働くスタッフの声を取り入れた定期的なルール更新が大切です。流行や社会の常識は変わっていくので、時代に合ったルールへと進化させることが、企業イメージの向上にもつながります。ある旅館では、年に一度「身だしなみ検討会」を開いて、現場スタッフの意見を聞きながらルールを更新しています。これにより、伝統を守りながらも時代に合った「和のおもてなし」が実現できています。
私たちコムニコスは、ヘアメイク技術を通じて、サービス業の「おもてなしの質」と「働く人の幸せ」の両立を応援していきたいと考えています。日本のジェンダーギャップ指数を改善するには、サービス業の身だしなみルールという、小さく見えるかもしれない部分からの変化も大切です。
お客様に最高のサービスを提供するためには、まず働く人が自分らしく、健康的に、そして誇りを持って働ける環境が不可欠です。ヘアメイクのプロとして、私たちは「美しさの多様性」を理解し、それを企業文化に反映させるための橋渡し役を目指しています。